シンガポール視察 平成26年1月26日(日)~1月29日(水) 3泊4日
マリーナベイ・サンズ
 視察初日行程の最初に、世界で最も成功した統合型リゾート(IR)と称賛されるマリーナベイ・サンズ(MBS)を訪れた。
 圧倒的な奇抜さを誇るその外観にいささか気圧されながらも、近づくにつれその現代建築技術の粋を結集した美しさが見て取れる。内部に入ると大きな吹き抜け空間が随所にあり、開放的な光が満ち溢れていて、人工的な中にも自然をふんだんに採り入れようとする工夫がみられる。
 我々一行はまず、MBSの社長と最高経営責任者を兼務するジョージ・タナシュヴィッチ氏にお会いし、会議室で氏みずからのプレゼンテーションを伺った。

 シンガポールの雇用が冷え込み頭打ちしている局面を打開するため、政府と官民共同で行ったIR導入による経済変革に名乗りをあげ、新たなシンガポールの象徴としてオープン(2012年)後わずか約2年で一定の成果を収めた。マリーナベイ・サンズが、日本でも人気グループのスマートフォンCMで話題をさらったのは記憶にまだ新しいが、シンガポールを訪れるなら必ず立ち寄る観光スポットとしては、同マリーナベイ内のマーライオンを凌ぐ勢いである。
 世界をあっと言わせた「3つのタワービルを屋上の客船を思わせるフォルムのプールでつなげる」演出は、圧巻であった。がしかし、シンガポールの一般的観光スポットの新旧交代というだけにとどまらない観光政策の転換が図られていたのである。そのような一般的なイメージを払拭するに足る、プレゼン内容を以下に詳述する。

✿拡大するMICE(会議・インセンティブ旅行・コンベンション・展示会)ビジネスを含めてのIR

 MICE事業に力を入れていることは、数々の数字が表している。
①アジア最大のボールルーム
②2,000に分けることのできる展示会場
③250の大小会議室
 これらが5つのフロアに120,000㎡広がり、総収容人員は45,000人とのことだ。
 その圧倒的規模は国際会議開催件数で国別・都市別でランキング第1位になり、世界中からMICEに一流の人々を集め、結果的にホテル、カジノが相乗効果で賑わっている。カジノに重点を置いて考えられがちだが、構想の段階からそのようなコンセプトの下に進められてきた経緯があるとのこと。

✿上質なショッピングゾーン・レストラン・エンターテイメント複合施設のあるIR

 国際的な有名ブティックが立ち並ぶ、吹き抜けの多層階のゾーンには水の都ベニスを彷彿とさせる運河が流れる。
 世界各国の一流レストランもさることながら、様々なクラスのニーズを満たすレストランが迷うほどあるのも工夫の一つ。また、「ライオンキング」や「オペラ座の怪人」などを上演する劇場、ロードショーを上映する映画館などの他、ひときわ人目を惹く、不揃いな花弁を思わせるフォルムのアートサイエンス・ミュージアムが併設され、博物館展示イベントが常時開催されている他、「タイタニック」や「ハリーポッター」などの特設展イベントも積極的に誘致している。
 MBSホテル宿泊をしている人でも滞在期間中に行き尽せないほどであり、外部からもカジノ以外のエリアはオープンでMBS以外の周辺ホテル滞在者やシンガポール在住者へもアミューズメントを提供している。

✿カジノについて

 驚いたことにIRの核であると思われているカジノは、MBS施設面積全体の3%未満。そのカジノで収益の80%を上げている。国策である強みを活かし、シンガポール政府との良好な関係の下に法規制を徹底させ、経営管理は厳重にかつ専門的に行われているという。

【社会的セーフガード】
カジノ入場税制度:*シンガポール市民と永住者から入場税・・・

1日パス・・・100S$  年間パス・・・2,000S$
*外国人は入場税免除  *入場排除制度・・・・本人以外の申請でできる  
・政府からの経済的援助  ・犯罪者リストに載っている  ・頻繁すぎる入場者を制限

結果

*ギャンブル参加者:
2008年54%   ↓
2011年47%  7%減少
*ギャンブル依存症:大きな変化なし  *犯罪率2012年:過去29年で最低

【経済効果】

■投資額 56億US$  ■税収効果は2012年・・・7億US$  2015年・・・GDPの1.26%を貢献する見込み  
■37,000人の雇用創出(2015年見込み)

2005年に停滞する経済・税収減に対し、統合型リゾートIR政策を決定し、たった5年間で完成させた。年間来訪者も1,000万人を切っていたが、2009年比で2012年は48%V字回復し1,440万人を達成

【日本にIRを作るメリット】

 先発的な取り組みによって即座に、かつ持続的な結果を出す。韓国なども名乗りを上げている現在、日本および地方自治体は法改正を前に意思決定をすることが肝要とのCEOの考えだ。
 日本ならではの好条件といわれる諸要素は、ソフト面の充実が挙げられる。またロケーションメリットがある。日本の候補地はすべて海に面しており、開発可能性が高い。
 MBSのデザイナーの提示は即時可能。例えば魚のヒレや波を思わせるようなもの、蝶々のようなもの、丸いフォルムのかつてない建造物など・・熱心に披露された。

【Q&A】
Q:地震などが多い日本、自然災害とどう向き合うのか。

A:環境にやさしいもの、省エネ、災害に強いものを考えていく。

Q:東京・大阪・沖縄の中で一番有力なのは。

A:どんな大きなものでも造ることができるには、ある程度まとまった土地が必要。かつ国際都市でなければいけない。(大阪が有力な候補地であるものの、明確には言及を避けられた。)

Q:MICE事業には誰が出資するのか。

A:MBSはシンガポール以上に投資する。現有のコンベンションホールやホテルの規模などは都市に合わせて考えていく必要がある。MICE事業はインターナショナルなもの。また、大阪の観光客の流れなども考慮対象である。

Q:他のギャンブルへの良い影響というのはあるのか。

A:数字は開示しているが、原因は分からない。むしろギャンブル依存率が上がらず下がったことに注目するべ きと思う。

Q:カジノに反対はなかったのか。

A:国民の声をまとめたのは政府だった。(2004年~05年の世論調査では50:50だった)
しかし、3:97のリゾート施設であることやCSR(企業の社会的責任)としてチャリティなどに力を入れコミュニティにも貢献した。

Q:大阪が有力とのことだが、大阪市政府に求めるものは。

A:資金調達は心配ない。観光局と密接に関係を持たせてほしい。また、イベントオーガナイザーと誘致が重要になってくるので何を持ってくるのか、周波数を合わせる必要がある。
また、空港とのアクセス・・鉄道や高速道路などのインフラ整備は求めたい。ゾーンとして考えて頂きたい。

【感想】

 確かに都市国家として意思決定し、ほぼ独裁に近い形で国家経営可能なシンガポールならではの展開速度であったと思う。ジリ貧になる観光税収の打開策としてのIR誘致は、資源・労働力等すべてを輸入に頼っている観光立国シンガポールにとっては国家存亡の切り札であったに違いない。
 ラスベガスでの成功モデルをひっさげ、乗り込んできたサンズ社はシンガポール経済にとって救世主だった。ただ、シンガポール国家にとっての救世主であったかどうかは、歴史が検証してくれる日を待たなければならない。
さて、政府のカジノ法案はまだ成立をみていない現在、関西からも政財界からのアプローチが盛んとのことである。誘致合戦とまではいかないが、この圧倒的成功を見せつけられると食指が動くのも納得する。素晴らしいの一言に尽きる企業戦略と国家戦略のコラボレーションである。
 しかし、最後のQAでCEOが語った、インフラ整備などの問題や、そもそもすでに大阪市が抱える貧困の問題やギャンブル依存症の問題は欧米系企業トップの考えるドライな感覚で乗り切れるのか不安が残る。国策としての観光戦略となればなおのこと、地域を預かる基礎自治体として影響をプラス面だけでなくマイナス面もしっかりと見ていかなければならないと考える。
 翌日、もう1か所視察したリゾート・ワールド・セントーサと比較し、また教育施策とも併せて、後段で再度検討してみたい。

(財)自治体国際化協会シンガポール事務所
 CLAIRシンガポール事務所を訪れた。
 CLAIRは「地域の国際化」のために、日本の地方自治体による海外の自治体との交流・国際協力・観光や物産などの経済活動を支援するための財団であり、ベトナム・インドネシアなどのアセアン10ヶ国とインドを所管している。職員は全国自治体からの派遣24名で構成され、大阪府では堺市からの派遣職員1名が常駐。所長は総務省職員。
 CLAIR訪問の目的はシンガポールにおける政治経済の最新情勢、特にIR含む観光政策・教育ICTについて包括的な概況を聴取することである。

✿概要

シンガポールは国土面積が715.8㎢で、琵琶湖に相当する小さな都市国家である。人口は531万人(うち外国人149万人)民族は中華系74%マレー系13%インド系9%などで、英語・中国語・マレー語・タミル語を話す。宗教は仏教・イスラム教・キリスト教・ヒンドゥ教など。赤道からわずか137㎞の常夏の国である。
 第2次世界大戦後イギリス直轄植民地となるもマレーシア連邦として1963年独立。1965年マレーシアからひとつの州として独立。大統領を元首とする立憲共和国となる。
 現在はトニー・タン大統領のもと、統治権はリー・シェンロン首相が握る。独立後48年間でたった3人の首相しか出ていない安定政権。一院制の議会構成は、与党PAP(Peoples Action Party)81議席:野党6とほぼ一党独裁であることも重要なポイントである。

✿シンガポールの観光

建国以降の来訪者が伸び悩み、1964年労働問題が深刻化し、労働集約的な観光産業に力を入れる。
①1996年 ビンタン島開発:ツーリズム21策定        :10万人
②2005年 IR計画促進法:ツーリズム2015策定      :770万人
➂2012年 2つのIR完成:ツーリズムコンパス2020策定  :1440万人

シンガポール政府観光局(STB)の主要戦略 “ツーリズム2015”
*アジアにおける先進的な国際会議や展示会の開催場所としてのシンガポールの地位をより強固なものにすること
*個性的な体験ができるシンガポールを発展させること
*教育・医療・金融のサービス分野において、質の良いサービスを提供できるシンガポールを確立すること

✿シンガポールの教育

・2013年教育予算は歳出の19%(国防費に次ぐ規模):有能な人材育成が国家戦略である
・徹底した試験による能力主義に応じた教育体系があり、振り分けられている
・また英語と各民族の母国語の二言語主義を採っている。共通言語としても国際社会での必須言語である英語教育は徹底している一方で、多民族が構成するシンガポールにおいては各民族の文化の継承やアイデンティティーの尊重の意味から母国語教育も行われており、帰属意識の醸成に配慮されている。
・ICT教育も1997年にICT教育マスタープラン→2003年マスタープランⅡでフューチャースクール認定→2009年マスタープランⅢでその強化と拡大を図った

✿シンガポールの社会保障

CPF
 年金と社会保険はCPF基金に自ら積みたて(給料の36%)を強制的に行い、必要な医療費などはそこから引かれるという独特の社会保障制度を構築。
 ただ、経済的に厳しい人に対する生活保護制度はあるとのこと。

今後の展望

✿シンガポールの優位性

 東南アジアの中心に位置し、天然の良港に恵まれ、都市国家として政策の徹底が行うことができる。緑豊かな環境。治安もよく、町がキレイで都市インフラが整っている。その上、世界に通用する高度な英語教育や高等・大学教育なども整備され、国際的人材輩出の素地ができている。

✿シンガポールの課題

 国土が狭い上、歴史的建造物や自然などの観光資源に乏しい。物価が高く、旅行者の出費が観光立国でありながら非常に高いことも挙げられる。そのような中、いかにして新しい付加価値を生み出していくかが課題と言える。

シンガポール情報通信開発庁 情報通信体験センター
 CLAIRシンガポール事務所の案内で、視察初日の最終箇所。町の中心地のオフィスビルにある情報通信開発庁を訪れ、様々なシンガポールのIT技術の生活への採り入れを見た。
 ただ、狭隘なスペースでの展示であり、タッチパネルやスマートフォンなどの機器に慣れている日本人にはさほど目新しい技術とは思えないものであった。
 日本のITリテラシーは、欧米に比べてもさほど見劣りのするものでないと感じるが、ここシンガポールでも生活の中にどれだけ入り込んでいるかというと、「次世代の教育に力点を置くという域を超えない」と感じる。日本でスマートハウスやスマートタウンなどの試みが始まっていることを思えば、日本のIT技術や日常生活への浸潤は世界水準であると改めて思った。



 

南洋(ナンヤン)女子中高一貫校
 南洋女子中高一貫校にて、まずは教育省の取り組みについて説明を聴取した。(クレアでの説明と若干重複するが、教育省の直接のお話ということで詳述する)

✿シンガポール教育省

将来に向けて段階的に国家主導でICT戦略を立案推進し、取り組みを整えていった
①1997年マスタープランⅠで21世紀に活躍できる人材育成を目的に策定
(教師の育成・インフラの整備・ソフトウエア開発)
②2002年マスタープランⅡでフューチャースクール認定(段階的に5~25%にあたる学校を選び認定し種まきをした)
③2009年マスタープランⅢでその強化と拡大を図った(フューチャースクールが整備された)

✿ICT教育は21世紀に求められるシンガポール人の適性として

①きちんとした学習ができる
②意欲を持った学生



 

✿3Rについて

Reflective:反応する
Responsive:責任をもって
Responsible:共感する
つまり知識や情報を選りすぐりながら、それらを鵜?みにするのではなく判断しながら共感を得ることが大切である。

✿5Principles of Learningについて

1. Learning is Active:活動
2. Learning is Holistic:全体論
3. Learning requires Metacognition: メタ認知
4. Learning is Social:社会
5. Learning is Contextual:文脈  

✿Prototype 21 C2 Project(P21C2) について

・操作性や速度・バッテリーの持ち・重さ・価格などの点からiPadに絞り込み、ICTを活用した授業力と学びの両側面から生徒たちを支援する方針を決めた。
・まずは先生を育成。Apple社のプロによる支援によって先生方のICT技術やICTリテラシーを向上させた。全職員がICTを身に付けた(3年がかり)
・アプリなどの開発も進み、それによりカリキュラムを充実することが可能となり、「先生が中心」ではなく「生徒が中心」となる授業   教科書+ノート ⇒ iPad :根本的な変化(ワクワクどきどき)を生徒に与えた
・学習はこれまで授業が終われば終わるものだったが、ICTデバイスによってスペースが広がった。
・しかしあくまで、P21C2というものはiPadというデバイスの問題だけではなく、どのアプリを使うかという問題でもなく、教科書にとって代わるものでもなく、ましてや先生にとって代わるものでもない。
・P21C2は学習体験そのものの向上であり、いかにしてICT技術が効果的・効率的な教示を与えうるかということを示しており、学びの変容が生徒たちをより高めるかということにかかっている。
 
生徒のアンケート結果               保護者のアンケート結果

【Q&A】
Q: 先生たちのICT技術の習得はどのようにしたのか

A: 最初にICTリテラシーの高い先生を軸に、拡げていった。またMicrosoft社やアップル社で学ぶ機会も与えた。

Q:小学校の基礎教育の場面では母国語の習得等、中高とは違った難しさもあるのではないのか。

A: 基本的には同じで、カリキュラムに組み込み進めた。ただ、ナンヤンはかなりの成功例と言える。

Q: iPad等の保護者負担は?

A: iPad購入代金のみ負担してもらっている。その他、LAN環境や充電ブース設置などは学校が整備。
   経済的に厳しい家庭には学校OBからの寄付があり、援助できる体制がある。

Q: 学費は?

A: 中1・2年生は200S$ /月、 中3・4年生は250S$/月 (約20,000円) という廉価。これだけの設備でこれだけの教育ができるのは国家戦略として人材育成教育に投資をしようという明確な教育省の方針があるからだ。

キャンベラ小学校
 午後からは総児童数1600名、職員数130の公立小学校へ。1㎞徒歩圏内で通学してくる多民族の子供たちが共に学ぶ、ごく一般的な公立小学校でのフューチャースクール実例だ。
まず大変熱い、黄宝満校長先生のプレゼンテーションを伺った。デバイス(携帯電話やiPad)が子供を“あやすもの”であってはならない。そのもの自身に害はないが、価値を教えて初めて役立つ。
これから獲得するであろう言語の質にも影響を与えてしまう。

◎デバイス選び
・サイズも適切で、落としても大丈夫な使いやすいものでなくてはならない。
・最新のものがBESTではない
・6~7歳くらいの子供は大きいものを書きたい、描きたいという欲求がある
・6時間チャージしないで済むもの
・After-sales Supportがあるもの
・学校外で使えるもの

⇒ iPad  に決まった経緯を聴いた後まずは教室へ参観(約30分)
モニターで全体指導の後、グループに分かれ、
個人が自分なりの工夫をしてiPad で課題を
こなす。この児童たちは4ヶ月で使えるように
なったという。

・キャンベラExperience に至るまで、校長は1997年始まったマスタープラン1にかかわっていたが、シンガポールも同じく試行錯誤の時期があった。“コンピューターはあればすぐ使えばいいというものではない”。

・マスタープラン2からマスタープラン3ではじめて協力し合いながら、目に見えない所が大切だということを学ぶ

・現在、マスタープラン4の段階である。

①アップル社に出向いて何が必要か、さまざま検討を行う。子供たちにはまだiPadを与えていない。
デバイスを学校が買うか、保護者が買うかなどを検討し、保護者が買うことにする。その結果はのちのち正しい方針だったことが、今まで1度も壊れた例がないことで証明された。
     Cf. 経済的に買えない子には48 S$ ( 意図的に無料にはしない)
②教師のスキルアップを図る
➂家族で分かち合える時間をとる:家へ持ち帰らせる
  保護者には1:1でデバイスを使うことをオリエンテーションする
④先生同士が共通認識を持ち合う、保護者同士に学び合わせる
⑤父母と子供の間で、iPadは学習のために使うということ大切に使うことなど誓約をさせる。
  渡し方もカードを添えて素敵なギフトバッグに入れて、子供に父母から渡す、というプロセスを踏むことが大切である。

①~⑤に1年かけてようやく子供たち一人1台のiPadを手にする。保護者もこの時点までには95%が賛同をし、喜んで子供にiPadを買い与えることができるようになっている。
時間をかけて、保護者も子供もiPad を大切にし、iPad を仲立ちに教育にも関心を寄せるようになる。

⑥保護者に使いやすいアプリを提供する段階になる。

【感想】
南洋女子中高一貫校とキャンベラ小学校といある意味、典型的なエリート校中高一貫校と一般的な小学校を同時に視察できて幸いだった。どのような学校でもICT教育の「導入は可能である」という事がはっきりわかった。
しかし、同時に、ICTを導入して何をするかという目標、また何のために導入するかという目的を明確に持つということの大切さも感じ取ることができた。
先のエリート校では高度な情報処理や今欧米で話題となっている「反転授業」が可能となるような域まで到達することを目標とし、国際的に通用するグローバル人材育成の武器となるツールとして考えられている。
一方で、経済格差社会にあって、そこから抜け出す、あるいは到来するであろうIT社会での生活の基礎技術としての教育ICTも考えられている。
ただ導入することだけを目的とすれば、子供たちには単なる便利な箱として三日で飽きられてしまう。なぜなら実際のICT環境のそれとは違い、教育ICTは様々な制限が加えられた、ある意味「不完全な」「不自由な」デバイスにならざるを得ない。
割り切って限定的な使用とならざるを得ない教育ICTとはいえ、それを十分に活用していくためには教師の側のスキルがかなり求められる。
ここをどう本市でクリアしていくのかが、課題となろう。
また、財政的にも義務教育の期間中、一人一台を持続可能にしていくのには相当な決断が必要である。
持たせて終わり、一年だけ配って終わりにしては大阪市の教育は物笑いの種になる。
継続的なまた、明確な目的と目標を示して初めて、全市展開を決めなくてはいけないと改めて感じた。

リゾート・ワールド・セントーサ
 視察2日目最後は、2010年にオープンしたセントーサ島の巨大統合型リゾート(I R)「リゾート・ワールド・セントーサ」を訪れた。島とはいっても橋やケーブルカーで往来ができるが、景観上高さ制限がかかっているため、先に視察したMBSとは全く趣を異にしている。
しかもユニバーサルスタジオ・シンガポール(USS)や世界一大きい水槽を有する海洋水族館を巻き込んだ形の、49万㎡の広大な敷地を持つ。

MBSでも力をいれているMICE事業の会場ここでは中心に位置し、それを取り囲む形で各種のホテルがある。世界一の水族館やウォーターフロントを上手くコンベンションルームや、ホテル、コテージにも取りこみ、他では見たことのないような空間演出や客室作りを成功させていた。遊び心満載で、どちらかと言えば、滞在型リゾートと言ってもよい盛りだくさんの仕掛けがあり、富裕層から家族連れまでが満足できるような各種のホテルやアミューズメント施設、ショッピング・ゾーン、レストランなどがあった。プレゼンによると、リー・シェンロン首相や皇族も来訪されるVIPゾーンもあるとのこと。

もとはイギリスのgentlemen’s clubである
クロックフォードが前身。小規模なカジノであるブティック・カジノだった。

【Q&A】
Q:大阪へ投資するとすれば?

A:カジノによる経済効果としては最後のチャンス。マカオのようにたくさんカジノが出来てしまうとダメで1か所にするべきだ。観光による増収効果は少なくとも4000億円。5000億は見込める。

Q:マーケットはどこにあるのか?

A:30年の経験からすれば空港を中心に3時間圏内。関西は京都・奈良・神戸など非常に魅力的な都市だ。

Q:雇用は日本現地で調達するのか?

A:70%は現地でと考えている。

Q:ディーラーは上海で研修とのことだが?

A:英語・中国語は必須。交換留学生やインターンシップなどを考えている。

Q:CEOの目から見て、日本と韓国とどちらが優位か?

A:大阪のほうが文化・歴史がある。欠けているとすれば、クリエイティブなマーケティング。これは重要。

【感想】

二つのカジノが2012年同時オープンして日本では圧倒的にMBSの知名度が高い。ともにギャンブル依存症に対する対策や、犯罪などに対する規制を国レベルで行っている。確かに税収・経済波及効果・雇用創出などは想像以上だったが、観光資源に乏しく、意思決定も比較的容易な都市国家シンガポールであるからこその起爆剤として機能したのではないか。既存の文化との共存共栄が図られるかどうかも課題である。大阪が世界に誇る無形文化遺産「文楽」補助金カットや、自治体が持っていた日本で2つしかないプロの吹奏楽団「大阪市音楽団」を手放すなど、現市長の大阪の文化に対する考え方はこのIRの文化志向と相容れるのか。「大阪のお坊ちゃん、お嬢ちゃんはばくちに幼いころから慣れ親しむべし」、「猥雑なものはすべて大阪が引き受ける」というかつての市長発言など、そもそも今回の統合型リゾートが目指している方向と合致しているのかどうかも極めて疑問である。

また、こうした視察に現地へ行くと、大抵は良い面しか見せられない。ましてや今回は相手が民間企業で、大阪が有力な候補地であればなおのことである。

さらには、介護・看護・建設の分野で外国人労働者受け入れの議論が国で議論になっている。このような観光・集客・娯楽の世界でも外国人労働者前提のIRであることを考えれば、単一民族国家として長い歴史のある我が国の根幹にかかわる問題として、そういった議論も当然必要になってくることだろう。

バスに乗り遅れないようにと結論を急ぐのではなく、経済の物差しで目くらましに会わないように、プラス面、マイナス面ともに反対論者・賛成論者の双方の意見をすべて詳らかにしたうえでのことだが、住民と自治体の合意形成は今後どのようにしてはかられていくのだろうか。もちろん国の法制化を見定めなければいけないが、慎重にIR議論を進めなくてはいけないと改めて思った。

シンガポール港
帰国する日の午前中、7か所目。最後の視察先であるシンガポール港を訪れた。

このように、比べ物にならないほどの規模にただただ唖然とするばかりであった。
取扱いコンテナ数はじめすべてにおいてである。釜山港を視察した時にも感じたことだが、いずれも外海に広く面しており、かつての「天然の良港」と呼ばれた入り組んだ海岸線が現在の海運事業にとっては、むしろ阻害要因になっている一面もある。しかし、シンガポールを筆頭として、上海・釜山などのアジア圏の海上貿易量は、アジアー北米、アジア―欧州が北米―欧州の伸びをはるかにしのいでいる。これがGDPの伸びと合致している。
視察時も、入港待ちの大型コンテナ船が海洋上に無数に停泊しているさまは圧巻であった。

✿PSA(Port of Singapore Authority)

PSAは1964年にシンガポール港湾庁として、港の整備・維持管理・船舶運航管理などを一元的に担ってきた。
1997年に国際戦略的な港湾運営のため、シンガポール政府全額出資のPSAコーポレーションとして民営化。
その後、PSAインターナショナルがシンガポールに本部を置く世界最大の港湾運営会社として立ち上がり、PSAコーポレーシションは逆に子会社化された。

【感想】

プレゼンを聞いていて特に興味を覚えたのは無人で遠隔操作による完全自動化コンテナターミナルである。実際にバスに乗ってこの敷地内を走行するトラックとガントリークレーンを注視していたが、まだそこまでは進んでいない。いずれはということらしいが、そんなに遠い将来の事ではなさそうな光景であった。

日本では名古屋港が自動化コンテナターミナルを日本初で供用している。管理棟内の捜査室から遠隔操作で、ヤード内を往復する自動搬送台車(AGV)を33台導入しているという。無人の完全自動作業を行ない、モニターで少人数のオペレーターがいるのみという先駆的な取り組みだ。建設港湾委員として議員1年目に視察したとき強烈な印象を持った名古屋港は、市街地から鉄道が港湾先端まで延び、コンテナの集荷・配荷を効率良くしていた。その後、数年が経つが新名神高速道路などとのアクセスも向上し、ますます港湾事業の充実をみている。
大阪港も神戸港との連携をより一層深め、阪神港としてのスケールメリットを生かしていく方向を模索するべきであると考える。内海であるビハインドをはねかえすには、思い切った入港手続きや通関手続きの簡素化と料金値下げなど、さまざまな方策が必要である。埋め立て土地利用は、まずもって港湾施設最優先で考えてこその「戦略港湾」と呼べよう。